『けいおん!!』石立太一さんについて 日々の描写


 石立太一さんのコンテ・演出回である、第一期第4話「合宿!」(脚本/花田十輝作監/秋竹斉一)と第一期第9話「新入部員!」(脚本/吉田玲子、作監/秋竹斉一)を観返す。第一期ってこんな感じだったのか。すっかり忘れていた。



 第4話「合宿!」も第9話「新入部員!」も漫画的というか、アニメ的というか、第二期での石立太一さんのコンテ・演出回とはかなり別物な感じだった。第二期の第5話「お留守番!」(脚本/花田十輝作監/植野千世子)と第11話「暑い!」(脚本/村元克彦、作監/植野千世子)は、リアリティ志向というべきなのか、第一期よりも抑制されている。これは、石立太一さんの転向というものではなく、山田監督による作品方針の転向なのだろう(第二期は全体に渡って)。彼女たちの日々をよりありありと映し出すために、日常的空間をより現実味のあるものへとするための転向。一期の人物たちの芝居も細やかなものだったが、第二期はより肌理細やかなものへとブラッシュアップされている。存在し得るはずのない彼女たちを、まるでそこに存在しているかのように表現する人物たちの細やかな芝居。女子高校生である彼女たちが取ろうであろう行動と仕草。絵でしかないものに、生命を吹き込む。

 第一期よりも、より現実感が増した彼女たちが過ごす何気ない日々。


 人物のデザインも第一期のもっさりとした感じが排されているようにみえる。例えば、第一期の梓のおさげと第二期のおさげを比べると、かなり違っている。第二期での梓のおさげはより重力を受けている感が増し、髪もかなり細かく描かれるようになった(一本一本とまではいかないが)。髪をリアルに描こうという意志は、第二期を第一期よりもリアリスティックなものにしようという方針のあらわれなように思える(人物たちの肉の質感もかなり違う)。


 石立太一さんの話に戻します。


 第二期において石立太一さんは、唯たちのごくごく普通の何気ない日々の生活を描くのが、頗る巧いように思える。第二期の方針を十二分に体現している人物だと云える。もちろん、他のスタッフの方も巧いのだが(第4話「修学旅行!」の木上益治さんなど他にも)。


 第5話「お留守番!」における梓・憂・純の描き方は、ホントに巧い。白眉なのが、憂の家でのお泊りから翌日の雨の日までの三人の過ごす何気ない時間の描写。あの異様なまでのリアルな三人の所作。特に、純の芝居に惹かれた。この素晴らしさは、脚本の力もあると思うのだが、コンテ・演出の方が大きいように思える。純は、ご飯を食べすぎて、気だるそうに寝ころぶ。その芝居の精緻さ。このショットでの、純の寝ころぶポーズとゴロゴロ。食べ過ぎてしまい、だるくて起き上がりたくない彼女を的確に効果的にあらわす芝居(彼女がとてもリラックスしていることもわかる)、それと絶妙な間と空気感。まるでそこに10代の女の子たちが本当に存在しているかのよう。



 就寝するシークエンスでも、床が狭くて敷かれた二つの布団の端が余ってしまうという細部まで行き届いた描写。このような細やかな描写が本編中に溢れている。



 早朝の歯磨き&髪を結ぶシークエンスの歯磨き粉を出す所なども細かい。その次の、梓が「これからどうしようか」と純に尋ね、純は質問に答えず漫画をずっと読んでいるという所が特に素晴らしい。約32秒間の1ショット。梓はソファーに横になり、純は漫画に集中し、憂は皆にお茶を差し出す、彼女たちの普通の日々の一コマをありのままに映し出す。ここでの憂の細やかな芝居(お茶を差し出す所)にはただただ瞠目する。この後の唯の部屋でのシークエンスやバッティングセンター、部室など挙げればきりがない良い所がたくさんある。肌理細やかな人物の芝居と細部まで行き届いた描写により、彼女たちが過ごす日々に説得力を与える。石立太一さんの手腕は見事だ。



 フルショット、あるいはロングショットや俯瞰からのショットで被写体を捉え、ただただ彼女たちの日常を切り取る。特定の人物の視点を有さず、客観的に彼女たちを捉える。カメラは固定され、動かされることはない。視聴者は彼女たちの何気ない日々をそのまま享受する。



 第5話「お留守番!」だけでなく、第11話「暑い!」も見事に彼女たちのごくごく普通の日々の時間を描いている。


 前の日記で繰り返し書いている第11話「暑い!」(前の日記を参照)。前の日記と同じようなことなので、短めに書きます。


 第11話「暑い!」の梗概は、軽音部のメンバーが「暑い」と云ってひたすら部室内でだらだらしているという内容。それしか説明のしようがない回で、トンちゃんのために車に乗ったり、クーラーのために動きまわることもあるが、主たるものは部室での軽音部メンバーの何でもない様子であり、楽器演奏をするわけもなく、ずっとだらだらしている。前にも書いた通り、この回はFIX主体であり、カメラワークが抑制されている(部室内でのカメラワークはほぼ皆無であり、頑として部室内で動かさない作りになっている。怖い話の時や部室外の時にはカメラワークはある)。


 部室内で「暑い〜、暑い〜」と云ってグダグダしている彼女たちのごくごく普通というか、何気ない時間をカメラを余計に動かさず、ただただそのまま映し出す。かと言って、何の工夫もなしにすると、受け手にとって退屈の極みになってしまうので(何の変化もなく、重大な出来事が生起するわけもないので)、カット割りや空間の見せ方、カメラアングルを駆使して見事に描いている。



 約37秒間に渡って唯と律の「氷を取ってきて」のやりとりが行われる持続時間が少し長い1ショット(FIX)。カットしないで、唯と律の会話がずっと繰り広げられ、二人のグダグダな会話がより強調される。彼女たちの至って普通な時間をそのまま見せる。



 彼女たちの日常的空間を映し出すことが十二分に出来ていると感じた。変哲のない日々の時間を描く優れた手腕。


 ありふれた日々を、下手したらとても退屈でつまらないものを、魅力的にみせる。先述したとおり、第二期において、石立太一さんは唯たちのごくごく普通の何気ない日々の生活を描くのが極めて巧い。ホントに素晴らしい演出家だと思う。


 終わるまでもう一回、コンテ・演出回が見たいところ。卒業が近い彼女たちをどう見せるのか。



おまけ


 第5話での純の行動がホントに良い。飽き性、ドーナッツを一口だけ食べる、直ぐ寝てしまうなど彼女の行動はとても愛らしい。漫画を見つけたら、部室ですぐに読み耽ってしまう。彼女のマイペースさがよく表されている。これは、脚本がいいのかな。